福祉・介護・リハビリ分野における3Dプリンター活用事例

福祉・介護・リハビリテーションの現場で、3Dプリンターを活用した事例が近年増えています。特に「個々の利用者に合わせた自助具の製作」への応用は大きな可能性を秘めています。本記事では、国内事例、さらにICTリハビリテーション研究会・ファブラボ品川など関連団体の取り組みをご紹介します。

3Dプリンター×自助具が注目される理由

個々のニーズに合わせたカスタマイズ

利用者ごとの身体状況や必要な形状に合わせて設計が可能なため、既製品ではカバーできない部分を補えるメリットがあります。

低コスト化が進んでいる

デスクトップ型3Dプリンターの価格が3万円台から導入可能になり、フィラメント(合成樹脂)も比較的安価で入手できます。

試作がスピーディ&修正しやすい

「一度試作 → 利用者が使ってフィードバック → 修正 → 再印刷」というサイクルを短時間で回せるため、最適な形状を素早く追求できます。

多職種連携・学び合いの場となる

医療・介護職だけでなく、エンジニアやデザイナー、当事者や家族が共同で作業することで、より実践的かつ創造的なアイデアが生まれやすくなります。

国内の主な活用事例

下表は、日本国内の福祉・介護・リハ分野におけるFDM方式3Dプリンター活用事例をまとめています。オーダーメイドの自助具開発を中心に、多様な成果が報告されています。
活用地域活用主体ジャンル活用団体名・施設名活用内容(具体例)
埼玉県所沢市研究所・病院国立障害者リハビリテーションセンター研究所 (参照:1)障害者のニーズに合わせた自助具(ライター点火補助具、ケーブル着脱補助具など)を設計・造形。研究所や病院で試用し、患者の生活動作を支援。
神奈川県川崎市行政+国立研究所(共同)川崎市(共同研究: 国立障害者リハ研) (参照:4)自助具共創ワークショップを開催。障害当事者、作業療法士、エンジニアが共同でオーダーメイド自助具を試作し、利用者の生活動作を支援。
福岡県福岡市病院(リハ専門)たたらリハビリテーション病院 (参照:2)作業療法士チームが握力が低下した患者向けに持ち手を太くするなど、個別のニーズに合わせた自助具を作成。材料費は1個60円程度で、短時間で改良できる点もメリット。
福岡県北九州市民間企業+介護者ネットワーク合同会社共創テクノロジー/ケア共創ネットワーク (参照:3)介護職員らに3Dモデリングを教育し、施設ごとに必要な自助具を作る仕組みを構築。データを共有しながら、利用者の多様なニーズに対応。
福井県福井市NPO(市民ものづくり工房)トンカンテラス (参照:5)地域拠点で障害者向け自助具を個別製作。利用者や家族、医療関係者と連携しながらサイズ・形状を最適化。3Dデザインの指導も行い、誰でも気軽に3Dプリンターを活用できるよう普及活動を展開。
全国各地で様々なプレイヤーが、自助具×3Dプリンターに取り組むようになりました。
次の章では、その中でも「リハビリテーションの現場の人々が主体的に3Dプリンターを活用して自助具を作る」ことに注力しているICTリハビリテーション研究会についてご紹介します。

ICTリハビリテーション研究会・ファブラボ品川の活動

一般社団法人ICTリハビリテーション研究会

医療・介護従事者、エンジニア、デザイナー、障害をもつ当事者など多彩なメンバーが参加し、リハビリテーションへのICTの適切活用を促進する研究会です。
リハビリの現場の人々が主体的にICTを活用する社会を目指して活動をされています。

ファブラボ品川

ファブラボ品川(東京都品川区)は多様な工作機械を備えた実験的な市民工房のネットワーク。作業療法士の方も中心になって活動されており、2018年の設立当時から3Dプリンターで自助具を作る活動に取り組んでいます。
ワークショップやセミナーを通じて、全国のケア現場に3Dプリンターの活用を広げています。
上記の表にある、たたらリハビリテーション病院も、ファブラボ品川のオンライン講習を受けて導入を始めました。

COCRE HUB

自助具など、インクルーシブな社会の構築に役立つ道具を3Dプリンタでともにつくるプラットフォーム。
3D プリントファイルの共有、パラメトリック (寸法調整) サービス、コラボレータマップによる身近な協力者の検索機能を備えています。

Fabrikarium TOKYO 2023

障害当事者やエンジニア、医療従事者などが短期間(ハッカソン形式)でモノづくりを行う「インクルーシブ・メイカソン」イベント。
フランス発の「Fabrikarium」の日本版で、障害のある人やその支援者を「ニードノウア(Need Knower・ニーズを知る人)」と呼び、そのニードノウアをチームメンバーに迎え、3Dプリンタなどのデジタル工作機械も活用し、その人が本当に欲しい道具作りに挑んでいます。

まとめ&筆者の感想

3Dプリンターを自助具制作に活用することで、「利用者個人に合わせた自助具を、低コスト・短期間で製作する」新たな可能性が広がっています。
その中でも、ICTリハビリテーション研究会ファブラボ品川を中心としたCOCRE HUBFabrikarium TOKYOなどのコミュニティやイベントでは、医療・介護職、エンジニア、デザイナー、そして当事者が協力し合い、多様なノウハウを共有しながらイノベーションを起こしています。
特定の機器やサービス、システムの販売を目的としていない、リハビリ現場の人々を中心としたコミュニティが、ニーズを的確に具現化するため3Dプリンターで試行錯誤を繰り返すことで、利用者のQOL向上ケアの効率化にとどまらず、ものづくりを通じた密度の濃いコミュニケーションの主役になっていくのではないか、と筆者は考えています。
高齢化社会が進展し、3Dプリンター本体や消耗品の価格も下がりつつある今、「3Dプリント自助具づくり」は社会全体のニーズになる可能性があります。地域のファブスペースを活用しながら、小さなアイデアを形にしていく楽しさが、リハビリ・介護分野にも新たな風を吹き込むはずです。
近くのコミュニティに参加してみましょう。きっと他の人のすてきなアイデアが待っているはずです。

参照リンク

  1. 国立障害者リハビリテーションセンター研究所https://www.rehab.go.jp/ri/event/jijogu2018.html
  1. 3Dプリンターで自助具 - 全日本民医連https://www.min-iren.gr.jp/news-press/genki/20240430_49785.html
  1. 介護現場の自助具をデジタル化へ─ケア共創ネットワークの3Dプリンタ活用への挑戦(北九州市ロボット・DX推進センター)https://www.ksrp.or.jp/robo-dx/blog/archives/2024/009623.html
  1. 川崎市 : 3Dプリンタを使った自助具製作のデザインhttps://www.city.kawasaki.jp/280/page/0000096370.html
  1. 3Dプリンターで制作する「自助具」|ケアモア – FM福井https://blog.fmfukui.jp/caremore/?p=2724
  1. ICTリハビリテーション研究会https://www.ictrehab.com/
  1. 3Dプリント自助具デザインコンテスト(ICTリハビリテーション研究会)https://www.ictrehab.com/misc/688/
  1. COCRE HUBhttps://cocrehub.com/
  1. Fabrikarium TOKYOhttps://fabrikarium-tokyo.org/