3Dプリンターで「子どもが飲み込まない」 デザインのための小部品シリンダーをつくる

家庭用3Dプリンターでは、いろいろなものが自由に作れるので、子供向けのおもちゃや教材を作ることがよくあります。
しかし、その子ども向けアイテムで事故が起こることは防ぎたいですね。この時に参考になるのが、玩具製品などに定められている玩具設計の世界共通ルールです。
各国の法規や業界基準は細部が異なるものの、ベースとなる判定方法はほぼ同じ。
この記事では、その共通基準の中から、誤飲を防止するためのサイズや形状に関して設計時の注意点と自分でできるチェックのための器具を自作して紹介します。
日本の玩具安全基準
日本では日本玩具協会によって玩具安全基準(ST基準)が定められており、検査に合格した玩具にはSTマークがつけられます。
機械的安全性:形状・強度など
可燃安全性:燃えやすい材料が使われていないか
化学的安全性:安全な材料で作られているか
について定められており、量販店で販売する際にはSTマークが必須となっています。
この記事で取り上げる誤飲防止の基準は「機械的安全性」の一部になります。
世界各国の機械的安全性に関する基準
規格(最新年版) | 小部品シリンダー寸法 | 落下試験(0-3 歳層) | トルク試験 | 引張試験 | 圧縮試験 | 公式文書 |
---|---|---|---|---|---|---|
米国 16 C.F.R. Part 1501 & §1500.51 | φ 31.7 mm × 57.1 mm | 1.37 m × 10 回(質量 < 1.4 kg) | 2 in-lb (0.23 N·m) × 180° × 10 s | 45 N (10 lb) × 10 s(直交方向も実施) | 89 N (20 lb) × 10 s | L. II e-CFR |
EU EN 71-1:2014+A3 | 同上 | 0.85 m × 5 回(質量 ≤ 4.5 kg) | 0.34 N·m × 180° × 10 s | 50 N(外形 < 6 mm)/90 N(≥ 6 mm) × 10 s | - | EUR-Lex |
日本 ST 2016 (ISO 8124-1準拠) | 同上 | 0.85 m × 5 回(質量 ≤ 4.5 kg) | 0.34 N·m(180°) × 10 s | 50 / 90 N | - | 日本玩具協会 |
カナダ Toys Regulations (SOR/2011-17) | 同上 | 0.85 m × 5 回(質量 ≤ 4.5 kg) | 0.34 N·m(180°) × 10 s | 50 / 90 N | - | Justice Laws |
豪/NZ AS/NZS ISO 8124-1:2023 | 同上 | 0.85 m × 5 回(質量 ≤ 4.5 kg) | 0.34 N·m × 10 s | 50 / 90 N | - | ACCC |
中国 GB 6675.2-2014 | 同上 | 0.85 m × 5 回 | 0.34 N·m | 50 / 90 N | - | SAMR |
これは、対象年齢14才未満の玩具に対する玩具の安全性の国際規格で、誤飲を防止するための機械的・物理的特性に関する基準が定められています。
基本的には
- 部品が直径31.7mm x 奥行57.1mm の範囲に収まらないか
- 落としたり、ひねったり、引っ張ったりしたときに外れた部品が上記の範囲に収まらないか
というのが誤飲を防止するときにまず考慮すべきとされています。

31.7mm x 57.1mmのサイズは、子どもの気道を完全にふさぐ危険なサイズとして定められました。
直径(31.7mm)は気道が最大に広がった時のサイズ、深さ(57.1mm)は実際に起こってしまった窒息事故の異物の上限の長さのデータから得られています。
部品や、力が加わった時に外れた部品や破片が上記のサイズ内に収まってしまうと、誤飲事故が起こる可能性が高まります。
これをチェックするため、上記の大きさの穴が開いた「小部品シリンダー」と呼ばれる道具を作り、その中に部品を様々な方法で入れて確認する方法があります。
「小部品シリンダー」をつくってみよう

小部品シリンダーは、規格に沿って作れば簡単に3Dモデリングできます。
今回はTinkerCADで作成します。
穴をつくる
まず、規格に合わせた穴の直径&長さと同じサイズの円柱を作ります。

次に、規格の穴は上記の円柱の底の部分を三角柱で切り取った形状をしているので、その切り取るための三角柱の「穴」をつくります


SHIFTキーを押しながら、円柱と、「穴」にした三角柱(くさび)をクリックし、「整列」をクリック

底面の中心をそろえたいので、中心にある黒丸を2か所クリック

うまく重なったら、そのまま「グループ化」をクリック

出来上がった立体を「穴」にすれば規格に沿った穴の形状の完成です

シリンダーに加工する
この穴を収めるための円柱を用意します。
穴より少し大きなサイズにします。

新しい円柱と、先ほどの穴をSHIFTキーを押しながらクリックして選択し、「整列」をクリック

上の面の中心を合わせたいので、図の3か所の黒丸をクリック

図のように重なったら、そのまま「グループ化」をクリック

小部品シリンダーの完成です。
「ソリッド」→「透明」を選ぶと、内部構造が見やすくなります。これは透けて見えているだけで「穴」とは違います。

エクスポートして3Dプリント
右上の「エクスポート」をクリック

「.STL」をクリック

ダウンロードされたファイルを3Dプリンタで出力してください。

その他のテスト
完成品が小部品シリンダーに収まっていなくても、すぐに破損したり分解されてその破片が収まってしまっては意味がありません。
以上のような方法で、破損して小さな部品が脱落しないか、確かめてみるとさらに安心かもしれません。
テスト | 公式荷重 / 高さ (代表値) | 自宅でのざっくり再現 |
落下 (Impact) | 米 CPSC : 1.37 m × 10 回(質量 < 1.4 kg)EU/ISO : 0.85 m × 5 回 | 梯子や棚から 胸の高さ ≈ 1.4 m へ目印を貼り、硬い床(フローリング上に 4 mm 金属板 or 厚いタイル)へ落とす。 |
トルク (ねじり) | 3 in-lb = 0.34 N·m を 5 s で 180°、10 s 保持(0-3 歳向け) | ドライバーなど L = 0.15 m の柄に 231 g 重りをぶら下げる。 F = τ / L = 0.34 / 0.15 ≈ 2.3 N ⇒ m ≈ 0.231 kg (g = 9.81 m/s²) |
引張 (Tension) | 15 lb = 67 N を各方向に 10 s 保持(同上) | 本体を万力固定し、部品に 6.8 kg の重りをビニール紐で吊り下げ 10 s。 m = F / g = 67 / 9.81 ≈ 6.8 kg |
圧縮 (Compression) | 円板直径 28.6 mm で 25 lb = 111 N を 10 s(米規格のみ) | 厚板 (≥ 30 mm) を乗せ、その上に 11.3 kg の重りを静かに置き 10 s。 m = 111 / 9.81 ≈ 11.3 kg |
曲げ (Flexure) | 金属ワイヤ等を 15 lb で 60° → 120° を 30 サイクル | 万力で固定し、ばね秤を使って手動で 6.8kgの力で30 往復引っ張る。 |
また、日本玩具協会の玩具安全基準では、以下のような小球ゲージを利用し、球形・卵形・楕円形の物体で、自重で直径44.5㎜のゲージ(小球ゲージ)を通過するものを不可としています。このゲージも簡単に作れるので、作ってみてください。

最後に
無事故で楽しく3Dプリンターのものづくりを楽しみましょう!
今後も、その他の基準や耐久テストツールについても記事にしていこうと思います。