福祉を変える3Dプリンターの力 – 自助具をもっと身近にするCOCRE HUBの挑戦

▲眞珠 宗彦さんの自助具セミナーの様子

はじめに

2024年11月27日に北九州のATOM icaで行われたセミナー「暮らしを支える3Dプリンタ」に参加してきました。
筆者以外の参加者の方々は医療や福祉の現場の方々でしたが、非常に高い熱意で3Dプリンターの現場での活用法を聞かれていました。
今回は、一般社団法人 ICT リハビリテーション研究会の活動や、「自助具」と「3Dプリンター」の関わりについてご紹介します。

自助具 x 3Dプリンター

自助具とは

自助具とは、介護やリハビリ、日常生活を支えるために作られた、特定の機能を持つ道具のことです。主に身体的な障害や高齢に伴う動作の制限を補助し、利用者ができる限り自立して生活できるようサポートする役割を果たします。例えば、握力が弱い方でも簡単に持てるスプーンや、着脱しやすい衣服の補助器具などがその一例です。

自助具における課題

介護やリハビリの現場では、自助具の重要性が年々高まっています。しかし、多くの現場から
「市販品では利用者に合わない」
「必要なものが高額すぎる」
という声が聞かれます。例えば、手の握力が弱い方のための食器用グリップや、リハビリ用のトレーニング器具など、既製品ではサイズや形状が合わない場合も多く、利用者が不便を感じることがあります。
「もっと使いやすいものを」
「一人ひとりに合った形状が欲しい」
―こうした切実なニーズに対し、従来の製品では応えきれないことが課題となっています。

3Dプリンターの可能性

そんな課題を解決する技術として注目されているのが「3Dプリンター」です。3Dプリンターは、従来であれば専門工場での高額な製造が必要だったオーダーメイド品を、低コストかつ短時間で製作可能にしました。
例えば、利用者の手の形にぴったりフィットするカトラリーグリップや、特定のリハビリ動作を補助する器具など、3Dプリンターなら個々のニーズに合わせた製品をその場で作り上げることができます。
さらに、現場での声を反映した迅速な試作・改良ができるため、利用者と介護者の間で理想の自助具を一緒に作り上げることが可能です。3Dプリンターは、福祉や介護の分野において「必要なものを、必要な形で提供する」という新しい可能性を切り開いています。

「3Dプリンター × 自助具」の例

3Dプリンターは、利用者のニーズに応じた多様な自助具を手軽に製作できるツールです。
以下は、「COCRE HUB」というプラットフォームで紹介された事例の一部です:
  • カトラリーホルダー T型S
    • 握力が弱かったり、手指の細やかな動きの調整が難しい方でも、スプーンやフォークなどを使いやすくするための道具。前腕中間位(ピストルを構えるような位置)で使用することができます。
      3Dプリンターでは、手の形状や力の入り方に合わせたグリップを作成できます。形状や厚みを自由に調整できるため、一人ひとりのニーズに最適化できます。
  • 残存する手指の機能を活かした拡張スイッチ
    • 脊髄性筋萎縮症でキーバインド操作が難しい方のために、左環指(薬指)でShiftキーを操作できる装置を製作し、痛みを防ぐカバーも追加。これにより、Illustratorの操作性が向上し、就労支援事業所での仕事の幅が広がりました。
  • 歩行器用アームサポート
    • 歩行器用アームサポートは、U字型歩行器で前腕の滑り落ちを防ぐ道具で、上からはめ込む形で取り付けます。サイズが合わない場合は滑り止めシートを挟むか、モデルを調整して対応します。

福祉現場へのメリット

現場の声を形に:迅速な改良のサイクル

3Dプリンターの大きな利点は、利用者や介護者からのフィードバックをすぐに反映し、製品を改良できる点です。たとえば、初めに作ったカトラリーグリップが「少し大きすぎる」と言われた場合、デザインを調整し、すぐに新しいバージョンを出力することができます。この柔軟性が、既製品では難しい「本当に使いやすいもの」を作る力となります。
3Dプリンターを活用することで、従来では対応しきれなかった利用者一人ひとりのニーズに応えることができます。身体の機能に応じたオーダーメイドの自助具を提供することで、生活の質が大幅に向上します。適切な自助具を使用することで、利用者が日常生活の中でより自立できる環境を実現することが可能です。

低コストかつ迅速な対応

3Dプリンターは短時間で設計から製作までを行えるため、いままでは高価で時間がかかっていた特注品をスピーディーに提供できます。市販品では対応が難しいニーズにも柔軟に応えられ、現場での課題解決力が大きく向上します。コスト面でも従来の製造方法に比べて負担が少ないため、福祉現場の予算内で対応しやすいのも大きな利点です。

ものづくりを通じた認識の共有

3Dプリンターを使った自助具づくりによって、利用者自身やその家族、介護者が一緒に参加できる体験型の改善プロセスが生まれます。この共同作業を通じて、利用者と支援者の間で日常生活の改善についてのコミュニケーションが生まれることがあります。また、「自分が使うものを自分たちで作る」というプロセスそのものが、利用者にとっては達成感や自己肯定感を高める貴重な機会にもなります。

プラットフォーム「COCRE HUB」とは

COCRE HUB (コクリハブ)は、大量生産を基本とする経済では叶えることが難しい社会のありたい姿を、デジタルを活用し、ユーザーもつくり手も「ともにつくり叶える」ためのプラットフォームです。その名称は、「ともにつくる=Co-Creationのハブ=接続点」に由来します。
2023年秋,3D プリンタで自助具をつくる方々の共創プラットフォームとして一般社団法人 ICT リハビリテーション研究会を中心に設立されました。
自助具などの3Dプリントファイルの共有、パラメトリック (寸法調整) サービス、コラボレータマップによる身近な協力者の検索機能を備えています。その他、3D プリンタの活用を始めたい・伝えたい方々に便利な学習コンテンツや、導入・作成事例の共有をしています。

九州におけるICTリハビリテーション研究会 会員の活動の例

一般社団法人 ICT リハビリテーション研究会の理事をつとめていらっしゃる眞珠 宗彦( またま むねひこ)さんが、大分や北九州、宮崎などでセミナーやワークショップを行っていらっしゃいます。
上記のイベントに参加し、筆者は初めてご挨拶させていただきました。
今後は舞鶴図工室でも、現場のリハビリや福祉の事情に詳しい専門家の方々の活動を支援することで、九州全域に活動を広げていくお手伝いが出来ればうれしいなと考えています。

舞鶴図工室の果たす役割

先述のCOCRE HUBでは「コラボレーター」という呼び方で
ここでつくれる:コクリハブのプラットフォームからアイテムを選び、出力の相談ができる
おしえてくれる:自分で3Dプリントができるよう、技術的なアドバイスやセミナー提供の相談が出来る
相談できる:セラピストの関与が重要な自助具で、専門家が対応出来る
といった施設が検索できます。
福岡市中央区にある私たち舞鶴図工室では、「ここでつくれる」「おしえてくれる」拠点として登録しており、COCRE HUBの理念を地域で実現する拠点として活動しています。
舞鶴図工室は、3Dプリンターを含む多様なデジタル工作機械を備え、初心者からプロフェッショナルまで幅広い方々に利用されています。この場所を通じて、福祉や介護、リハビリ現場に携わる方々が、必要なツールや自助具を試作・製作するためのサポートを提供しています。

地域の福祉関係者に開かれた場所として

舞鶴図工室は、福岡市内で、ただ機械を貸し出す場所以上の活動を目指しています。
福祉関係者が「こんなものを作れないか?」と気軽に相談できるオープンなイベントを数多く開いていく予定です。具体的なアイデアを持ち込むだけでなく、まだ形になっていない「こんなものがあったら助かる」という思いを共有し、形にするためのアドバイスや実際の製作支援へと繋げていきます。地域コミュニティの一員として、福祉現場の課題解決を共に模索する存在です。
舞鶴図工室などの地域のものづくりスペースと福祉関係者との連携は、技術と地域が力を合わせることで福祉や介護の現場に新しい価値を提供する挑戦です。

「地域全体でつくる福祉」を目指して

舞鶴図工室は、「すべての人が、ものづくりを通じて支え合える地域社会」を目指しています。地域社会の重要な部分を占める福祉現場での課題に対し、単なる解決策を提供するだけでなく、地域全体で創造的に取り組むことで、利用者やその家族、支援者が笑顔で過ごせる未来を築いていきたいと考えています。
3Dプリンターをはじめとするデジタルものづくり技術は、特定のプロフェッショナルだけが使うものではありません。日常の細かい課題に直接接しており、利用者のことを最もよく理解している場所にいる方が気軽に使いこなせる環境を整えることで、地域社会をものづくりを通じて支えていけると信じています。

舞鶴図工室のイベントのご案内

舞鶴図工室では、初心者でも気軽に参加できる3Dプリンタのセミナーを随時開催しています。
福祉業界の方々ももちろん大歓迎です。ここには書き切れなかった事例などもご紹介します。
次回のイベントは以下の通りです:
「思ったより簡単!安い!3Dプリンター活用セミナー」
また、今後は自助具の制作相談会なども頻繁に計画していきます。
このWebサイトや、Instagramのアカウントでお知らせする予定です。

メッセージ

3Dプリンターで作る自助具には、可能性が無限に広がっています。「こんなものが欲しい」という思いを形にし、利用者一人ひとりに寄り添ったものづくりを一緒に始めてみませんか?ものづくりが初めての方も大歓迎です。専門スタッフがサポートしますので、安心してご参加ください。
興味を持たれた方はぜひ一度、舞鶴図工室を訪れてみてください。見学や体験を通じて、3Dプリンターや自助具づくりの魅力を体感していただけます。また、COCRE HUBのプロジェクトに興味がある方は、どんな些細なことでもご相談ください。
未来の福祉を、みなさんの手で少しずつ幸せにしていきましょう!

お問い合わせ先

担当:鈴谷
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